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クリーンアーキテクチャ vs MVVM:違いと関係性をわかりやすく解説

ソフトウェア開発における設計思想「クリーンアーキテクチャ」とUIアーキテクチャパターン「MVVM」。これらは対立するものではなく、目的や役割が異なります。この記事では、それぞれの概念とメリット・デメリット、そして両者を組み合わせた開発手法まで、具体例を交えて丁寧に解説します。

Tags:#解説

はじめに

ソフトウェア開発の世界には、品質や保守性を高めるための様々な「設計手法」が存在します。中でも「クリーンアーキテクチャ」と「MVVM」は、近年多くの開発現場で注目されている重要な概念です。

しかし、この2つは名前が似ているわけでもなく、何を指しているのか、どのような関係性にあるのかが分かりにくいと感じる方も少なくないでしょう。

この記事では、「クリーンアーキテクチャ」と「MVVM」は対立する概念ではなく、それぞれ異なる目的を持つ設計思想であるという視点から、両者の違いと関係性を、専門用語を極力使わずに、かみ砕いて丁寧に解説していきます。

クリーンアーキテクチャとは? アプリケーション全体の設計思想

まずは「クリーンアーキテクチャ」から見ていきましょう。

クリーンアーキテクチャの目的:変更に強いソフトウェアを作る

クリーンアーキテクチャは、一言で言うと**「変更に強く、長持ちするソフトウェアを作るための設計思想」**です。提唱者であるロバート・C・マーティン(通称Uncle Bob)氏は、ソフトウェアの「関心事」を分離し、依存関係を整理することで、この目的を達成できると説いています。

「関心事」とは、例えば以下のようなものです。

  • UI(ユーザーインターフェース):画面の見た目や操作に関すること
  • ビジネスロジック:そのソフトウェアが本来解決したい、中核となるルールや処理
  • データ保存:データベースやファイルへのデータの読み書きに関すること
  • 外部サービスとの連携:他のシステムとの通信に関すること

クリーンアーキテクチャでは、これらの関心事を**レイヤー(層)として分離します。そして最も重要なルールとして、「依存性のルール」**を定めています。

依存性のルール:内側へ、内側へと依存する

クリーンアーキテクチャは、同心円状の図で表現されることがよくあります。

(画像出典: The Clean Code Blog by Robert C. Martin)

この図の中心に近づくほど、ソフトウェアの**本質的で、変更されにくい部分(ビジネスロジック)**が配置されます。そして、外側に行くほど、**具体的で、変更されやすい部分(UI、データベースなど)**が配置されます。

そして、「依存性のルール」とは、**「外側のレイヤーは内側のレイヤーに依存しても良いが、内側のレイヤーは外側のレイヤーに依存してはいけない」**というものです。

つまり、

  • UIはビジネスロジックを知っていても(依存していても)良い。
  • しかし、ビジネスロジックはUIのことを一切知ってはいけない(依存してはいけない)。

このルールを守ることで、例えば「ウェブサイトのデザインを大幅に変更する」という修正が、アプリケーションの核となるビジネスロジックに影響を与えることなく行えるようになります。データベースの種類を後から変更することも容易になります。

クリーンアーキテクチャのメリット・デメリット

メリット:

  • 保守性が高い:関心事が分離されているため、修正箇所が特定しやすく、影響範囲も限定的になります。
  • テストが容易:ビジネスロジックがUIやデータベースから独立しているため、単体でテストを書きやすくなります。
  • 柔軟性が高い:UIやデータベースなどの技術要素を、ビジネスロジックに影響を与えずに変更できます。

デメリット:

  • 設計が複雑になる:レイヤー間のやり取りが増え、コードの量が多くなる傾向があります。
  • 学習コストが高い:概念を理解し、正しく実践するには時間と経験が必要です。
  • 小規模な開発には過剰:シンプルなアプリケーションの場合、かえって開発効率を落とす可能性があります。

MVVMとは? UIを整理整頓するための設計パターン

次に「MVVM」について見ていきましょう。

MVVMの目的:UIの内部を整理する

MVVMは「Model-View-ViewModel」の略で、主にユーザーインターフェース(UI)を持つアプリケーションの内部を整理するための設計パターンです。

UIを持つアプリケーションでは、以下のような処理が複雑に絡み合いがちです。

  • ユーザーの操作(ボタンのクリックなど)を受け取る
  • 操作に応じて、データを取得・加工する
  • 加工したデータを画面に表示する

これらの処理が1つのファイルにまとめて書かれていると、コードは非常に見通しが悪くなり、修正や機能追加が困難になります。

そこでMVVMでは、UIに関する役割を以下の3つに分割します。

  • Model(モデル):アプリケーションのデータやビジネスロジックを担当します。クリーンアーキテクチャでいうところの、内側のレイヤー(ビジネスロジックやデータアクセス)に相当する部分です。
  • View(ビュー):画面の見た目そのものを担当します。ユーザーに情報を表示し、ユーザーからの入力を受け取ります。基本的に、見た目以外のロジックは持ちません。
  • ViewModel(ビューモデル):ViewとModelの「橋渡し役」です。Viewからのユーザー操作を受け取り、Modelに必要な処理を依頼します。そして、Modelから受け取ったデータを、Viewが表示しやすい形に加工して渡します。

MVVMの仕組み:データバインディング

MVVMの大きな特徴の一つに**「データバインディング」**という仕組みがあります。

これは、ViewModelが持つデータと、Viewの表示を自動的に同期させる仕組みです。

例えば、ViewModelにある「ユーザー名」というデータが変更されると、データバインディングによって、Viewに表示されているユーザー名も自動的に更新されます。これにより、Viewが直接ViewModelのデータを監視したり、手動で表示を更新したりするコードを書く必要がなくなり、コードがシンプルになります。

MVVMのメリット・デメリット

メリット:

  • UIロジックとビジネスロジックの分離:ViewとViewModelが分離されることで、見た目と処理のコードが分かれ、見通しが良くなります。
  • テストが容易:ViewModelはViewに依存しないため、UIを表示させることなくロジック部分のテストができます。
  • UIデザイナーとの分業:View(見た目)とViewModel(処理)が分離されているため、UIデザイナーとプログラマーが並行して作業しやすくなります。

デメリット:

  • 学習コスト:データバインディングなどの仕組みを理解する必要があります。
  • 小規模なUIでは冗長:非常にシンプルな画面の場合、かえってコードが増えてしまうことがあります。

クリーンアーキテクチャとMVVMの関係性:「全体設計」と「部分設計」

ここまでで、両者の違いが見えてきたでしょうか。

  • クリーンアーキテクチャ:アプリケーション全体の構造を定義するマクロな設計思想
  • MVVM:UIという特定のレイヤー内部を整理するためのミクロな設計パターン

つまり、これらは対立するものではなく、スコープ(適用範囲)が異なる概念なのです。

クリーンアーキテクチャが描く大きな設計図の中に、UIを構築するための具体的な手法としてMVVMが採用される、という関係性が成り立ちます。

最強の組み合わせ? クリーンアーキテクチャ + MVVM

実際、多くのモダンなアプリケーション開発、特にモバイルアプリ開発(Android, iOS)などでは、クリーンアーキテクチャとMVVMを組み合わせることが主流となっています。

この組み合わせでは、以下のような役割分担になります。

  1. 全体の構造(クリーンアーキテクチャ)

    • Entities / Use Cases(ドメイン層):アプリの核となるビジネスルールやデータ構造を定義します。最も内側のレイヤーです。
    • Interface Adapters(インターフェースアダプター層):ドメイン層と外部の世界(UI, DBなど)を仲介します。この層にViewModelなどが配置されます。
    • Frameworks & Drivers(フレームワーク&ドライバー層):UIフレームワーク、データベース、外部APIなどの具体的な技術要素です。この層にViewが配置されます。
  2. UI部分の構造(MVVM)

    • クリーンアーキテクチャのインターフェースアダプター層ViewModelを配置します。ViewModelは、内側の**Use Cases(ドメイン層)**を呼び出してビジネスロジックを実行します。
    • クリーンアーキテクチャのフレームワーク&ドライバー層Viewを配置します。Viewは、同じくインターフェースアダプター層にあるViewModelとデータバインディングによって接続されます。
    • Modelは、クリーンアーキテクチャのドメイン層やデータ層が担当します。

このように組み合わせることで、アプリケーション全体としては「変更に強く、テストしやすい」というクリーンアーキテクチャの恩恵を受けつつ、UI部分では「見た目とロジックが分離され、開発・テストしやすい」というMVVMの恩恵を享受できるのです。

まとめ:どちらかを選ぶのではなく、適材適所で活用する

クリーンアーキテクチャとMVVMは、どちらが優れているかを比較するものではありません。

  • クリーンアーキテクチャは、ソフトウェア全体の健全性を長期的に保つための哲学・指針です。
  • MVVMは、その指針の中で、特に複雑になりがちなUI部分を効率的に開発するための具体的な道具・戦術です。

プロジェクトの規模や要件に応じて、これらのアーキテクチャを適切に使い分ける、あるいは組み合わせて活用することが、高品質なソフトウェアを効率的に開発するための鍵となります。

もしあなたがこれからアプリケーション開発の設計について学ぶのであれば、まずはそれぞれの目的と役割を正しく理解し、なぜそのような設計が必要とされるのかという背景から学んでいくことをお勧めします。

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