ガウス混合モデル (GMM)はいつ使うの?わかりやすく解説
ガウス混合モデル(GMM)がどのような場面で活躍するのか、具体的な活用例を5つ挙げて、初心者にもわかりやすく解説します。データ分析や機械学習に興味がある方必見です。
ガウス混合モデル(GMM)活用の世界へようこそ
前回はガウス混合モデル(GMM)の基本的な考え方について触れました。GMMは、見た目には複雑に混じり合っているように見えるデータの中に、いくつかのシンプルなグループが隠れていると考える分析方法でしたね。それぞれのグループは、平均値を中心に左右対称にデータがばらついている「正規分布(ガウス分布)」という形をしていると仮定するのでした。
今回は、このGMMが具体的にどのような場面で力を発揮するのか、より詳しく見ていきましょう。「こんなことに使えるんだ!」という発見があるかもしれません。
ガウス混合モデル(GMM)が得意なこと:活用例5選
GMMは、データが複数のグループから成り立っていると考えられる様々な状況で役立ちます。ここでは、代表的な活用例を5つご紹介します。
場面1:顧客を特徴ごとにグループ分けしたい(顧客セグメンテーション)
なぜGMMが向いているの?
企業が顧客を理解し、それぞれに合ったサービスを提供するためには、顧客をいくつかのグループに分けることが有効です。例えば、お店に来るお客さんの年齢層、購入金額、来店頻度などのデータがあるとします。
一見すると、どこで線を引いてグループ分けすれば良いかわかりにくいかもしれません。あるお客さんは「若いけどたくさん買ってくれる」かもしれませんし、別のお客さんは「年配でたまにしか来ないけど高額商品を買う」かもしれません。このように、いくつかの特徴が絡み合って顧客のグループが形成されている場合、GMMが役立ちます。
GMMは、これらの顧客データが、例えば「頻繁に少量購入する若年層グループ」「たまに高額商品を購入する裕福層グループ」「特定の商品だけを買いに来るグループ」といった、いくつかの正規分布に従うグループから成り立っていると考えます。そして、一人ひとりの顧客が、それぞれのグループにどれくらいの確率で属しているのかを教えてくれます。
単純に「この人はAグループ、あの人はBグループ」とバッサリ分けるのではなく、「この人はAグループに80%、Bグループに20%くらい属しているかな」というように、あいまいさを持たせたグループ分けができるのがGMMの強みです。これにより、よりきめ細やかな顧客理解と、それに基づいたマーケティング戦略を立てることが可能になります。例えば、Aグループの特徴が強い顧客にはAグループ向けの商品を、Bグループの特徴が強い顧客にはBグループ向けの商品をおすすめするといった施策が考えられます。
場面2:画像の中から特定の領域を見つけ出したい(画像セグメンテーション)
なぜGMMが向いているの?
画像の中に写っているものを、意味のある領域ごとに分けたいという場面はよくあります。例えば、風景写真の中から「空」「山」「木」「建物」といった領域を自動で識別したい場合などです。
画像は、たくさんの小さな点(ピクセル)の集まりでできており、それぞれのピクセルは色情報を持っています。同じ領域に属するピクセルは、似たような色合いをしていることが多いでしょう。
GMMは、画像内のピクセルの色情報(例えば、赤・緑・青の強さ)が、いくつかの正規分布に従うグループから構成されていると考えます。「空」の領域のピクセルは青っぽい色のグループ、「木」の領域のピクセルは緑っぽい色のグループ、といった具合です。
GMMを使うと、各ピクセルがそれぞれの色のグループ(つまり、画像内の領域)にどれくらいの確率で属しているのかを計算できます。これにより、ピクセルごとに「これは空の領域っぽい」「これは木の領域っぽい」と判断し、画像を領域ごとに色分けしたり、境界線を引いたりすることができます。医療画像の分析で、患部と正常な組織を分離したり、自動運転技術で道路や他の車、歩行者を認識したりする際にも応用されています。色の分布が単純な一つの塊ではなく、いくつかの塊が混ざり合っているような複雑な画像でも、GMMは柔軟に対応できる可能性があります。
場面3:いつもと違う「何か」を検知したい(異常検知)
なぜGMMが向いているの?
工場で生産される製品の品質チェックや、クレジットカードの不正利用検知など、「いつもと違う」状態をいち早く見つけることは非常に重要です。
GMMは、まず「いつも通り」の正常な状態のデータがたくさんある場合に、そのデータがどのようなパターンを持っているのかを学習します。例えば、工場のセンサーから得られる正常な稼働時の温度や圧力のデータが、いくつかの典型的な稼働パターン(それぞれが正規分布に従う)の組み合わせで表現できるとGMMは考えます。
学習が終わると、GMMは正常な状態の「モデル」を持つことになります。その後、新しいデータがやってきたときに、そのデータが学習した「正常モデル」からどれくらい離れているか(つまり、学習したどの正規分布のグループからも生成されにくいか)を評価します。もし、どのグループにもあまり当てはまらず、GMMが「このデータは、これまで学習してきた正常なパターンではちょっと考えにくいね」と判断すれば、それを「異常」として検知することができます。
例えば、普段はいくつかの決まった温度範囲で変動している機械の温度が、これまで見られなかったような高い温度を示した場合、GMMはそれを異常として捉えることができます。複数の「正常なパターン」が存在する場合でも、それぞれを個別の正規分布として捉えることで、より複雑な正常状態をモデル化し、そこからの逸脱を敏感に捉えることが可能です。
場面4:声から「誰が話しているか」を識別したい(話者識別)
なぜGMMが向いているの?
スマートスピーカーに話しかけたときに、家族の誰が話しているのかを認識したり、電話の音声から特定の人物の声かどうかを判断したりする技術があります。これが話者識別です。
人の声には、声の高さ、話し方の癖、特定の音の出し方など、個人に固有の特徴が含まれています。これらの特徴を数値化したデータ(音響特徴量と呼ばれます)は、人によって異なる分布を示すと考えられます。
GMMは、複数の人の音声データを使って、それぞれの人の声の特徴がどのような正規分布の集まりで表現できるかを学習します。「Aさんの声は、こういう特徴を持った正規分布の組み合わせ」「Bさんの声は、また別の特徴を持った正規分布の組み合わせ」といったモデルを、話者ごとに作成するのです。
そして、新しい音声データが入力されたとき、その音声データから抽出された特徴量が、事前に学習したどの話者のGMMモデルに最もよく当てはまるか(最も高い確率でそのモデルから生成されるか)を計算します。最も当てはまりが良いと判断されたモデルの話者が、その声の主である可能性が高いと識別するわけです。複数の声質が混ざっているような場合や、声質が微妙に変化する場合でも、複数の正規分布でモデル化することで、より頑健な識別が期待できます。
場面5:データに抜けがあった場合に、それらしい値で埋めたい(欠損値補完)
なぜGMMが向いているの?
アンケート調査の結果やセンサーからのデータなど、集めたデータの中に一部、値が記録されていない「抜け(欠損値)」が見つかることがあります。これらの欠損値をそのままにしておくと、その後の分析がうまくできなかったり、誤った結論を導いたりする可能性があります。
そこで、欠損値を何らかの適切な値で埋める「欠損値補完」という処理が行われることがあります。GMMは、この欠損値補完にも応用できます。
GMMは、まず欠損値を含むデータセット全体が、いくつかの正規分布の混合で成り立っていると考え、その構造を学習します。つまり、データ全体の傾向や、変数間の関連性(例えば、身長が高い人は体重も重い傾向がある、など)を複数のグループの観点から捉えようとします。
学習後、あるデータ点の特定の値が欠損していた場合、GMMは、そのデータ点の他の既知の値や、学習したデータ全体の構造(どのグループに属しそうか、そのグループの典型的な値は何か)を考慮して、欠損している部分に最も「ありそうな」値を推定し、補完することができます。
特に、データが複数の異なる集団から構成されていると考えられる場合(例えば、ある病気を持つ人のグループと持たない人のグループで、検査値の傾向が異なるなど)、それぞれの集団の特性を考慮した上で欠損値を補完できるため、単純に全体の平均値で埋めるよりも、より精度の高い補完が期待できます。GMMは、データ点がどのグループに属するかの確率も考慮するため、より柔軟で自然な値の補完が可能になります。
まとめ
今回は、ガウス混合モデル(GMM)がどのような場面で活用できるのか、具体的な例を挙げてご紹介しました。
GMMは、
- 顧客のグループ分け
- 画像の領域分割
- 異常検知
- 話者識別
- 欠損データの補完
といった、一見すると異なる問題に対して、データの中に隠れた複数の「正規分布に従うグループ」を見つけ出し、各データがどのグループにどれくらい属するのかを確率的に示すことで、解決の糸口を与えてくれます。
GMMの強みは、データが複数の異なる要因やパターンから成り立っている複雑な状況を、比較的シンプルで理解しやすい「正規分布の集まり」として捉え直すことができる点にあります。これにより、単純な手法では見過ごしてしまうようなデータの構造を明らかにし、より深い洞察を得る手助けとなるでしょう。
もちろん、GMMが万能というわけではありません。データが正規分布に従わない場合や、グループの数が適切に設定できない場合には、期待した結果が得られないこともあります。しかし、GMMの基本的な考え方と得意な場面を知っておくことは、データ分析の道具箱を豊かにし、問題解決の選択肢を広げる上で非常に有益です。
次回は、実際にGMMを使って分析を進める際の注意点や、より実践的な側面に焦点を当てて解説していく予定です。
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