DQN (Deep Q-Network)とは?わかりやすく解説
「DQNって何?難しそう…」と感じているあなたへ。この記事では、DQNの基本的な考え方や仕組みを、専門用語をできるだけ使わずに、やさしく解説します。AIの学習方法の一つであるDQNについて、その魅力に触れてみましょう。
DQN(Deep Q-Network)とは何か?
DQN(Deep Q-Network:ディープ・キュー・ネットワーク)とは、賢い行動をコンピューターが自分で見つけ出すための学習方法の一つです。ちょうど、ゲームを何度もプレイするうちに、どうすれば高得点を取れるか、どうすればクリアできるかをだんだん覚えていくのに似ています。DQNは、特に囲碁や将棋、テレビゲームのような、たくさんの選択肢の中から一番良い手を見つけ出す必要がある場面で力を発揮します。
このDQNという名前は、「Deep Learning(ディープラーニング)」という脳の神経回路の仕組みを真似た学習方法と、「Q-learning(Q学習)」という「どの行動が良いか」を学習する方法を組み合わせたものであることから名付けられました。
簡単に言うと、 「たくさんの経験(データ)から、賢い判断の仕方を学ぶコンピューターの脳みそ」 のようなものだと考えてみてください。
なぜDQNが必要なの?
コンピューターに何か賢い判断をさせたいとき、以前は人間が「こういう時はこうしなさい」という細かいルールをたくさん教え込む必要がありました。しかし、世の中の出来事はとても複雑で、全てのルールを人間が考えるのはとても大変です。
例えば、ブロック崩しゲームを考えてみましょう。ボールの位置、パドルの位置、ブロックの残り具合など、状況は刻一刻と変わります。その全ての状況に対して「パドルを右に動かす」「左に動かす」「何もしない」といった最適な行動を人間がプログラムするのは、ほぼ不可能です。
そこでDQNの出番です。DQNは、「こういう状況のときに、この行動をしたら、どれくら良い結果が得られそうか」という「行動の価値」を自分で学習していきます。たくさんの試行錯誤を通じて、「この状況なら、この行動が一番良さそうだ」というのを、まるで経験豊富なプレイヤーのように判断できるようになるのです。
DQNはどうやって学ぶの? ~Q学習とディープラーニングの融合~
DQNの学習の仕組みを、少しだけ詳しく見ていきましょう。DQNは、大きく分けて「Q学習」と「ディープラーニング」という二つの要素から成り立っています。
Q学習:行動の「良さ」を点数で評価する
Q学習の「Q」とは、Quality(品質、価値)の頭文字です。ある状況で、ある行動をとったときに、将来的にどれくらいの「ご褒美(報酬)」が期待できるか、その「良さ」を数値(Q値)で表します。
例えば、ゲームで敵を倒したらプラス10点、アイテムを取ったらプラス5点、壁にぶつかったらマイナス5点、といった具合に、行動の結果を点数で評価します。Q学習は、この**「Q値」がより高くなるような行動を選ぶように学習**していきます。
最初はランダムに行動して、たまたま良い結果が出たり、悪い結果が出たりするのを経験します。その経験を元に、「あの状況で、あの行動をしたら良い結果になったから、あの行動のQ値は高そうだ」というように、Q値を少しずつ更新していくのです。
ディープラーニング:複雑な状況から「行動の価値」を予測する
しかし、Q学習だけでは問題があります。それは、世の中の状況は無限にあり、その全ての状況と行動の組み合わせに対してQ値を一つ一つ覚えておくのは、まるで分厚い辞書を丸暗記するようなもので、現実的ではありません。
そこで登場するのが「ディープラーニング」です。ディープラーニングは、人間の脳の神経細胞のネットワークを模倣した仕組み(ニューラルネットワーク)を使って、たくさんのデータの中からパターンや法則性を見つけ出すのが得意です。
DQNでは、このディープラーニングを使って、現在の状況(例えばゲームの画面など)を入力すると、それぞれの行動に対するQ値を出力するような賢い関数(Q関数と呼びます)を作ります。 これにより、初めて遭遇する状況であっても、過去の経験から学習したパターンを元に、「この状況なら、この行動のQ値はこれくらいだろう」と予測できるようになります。
つまり、DQNは、Q学習の「行動の価値を学習する」という考え方と、ディープラーニングの「複雑な状況から価値を予測する」という能力を組み合わせることで、より賢い判断ができるようになったのです。
DQNの学び方:経験から学ぶ「経験再生」と「固定ターゲット」
DQNが効率よく学習するためには、いくつかの工夫が凝らされています。ここでは代表的な二つの仕組みを簡単に紹介します。
経験再生 (Experience Replay)
人間が過去の経験を思い出して学ぶように、DQNも一度経験したこと(状況、行動、得られた報酬、次の状況)を一時的に保存しておき、後でランダムに取り出して学習に再利用します。これを「経験再生」と呼びます。
もし、経験した順番通りにしか学習しないと、似たような経験が連続した場合に学習内容が偏ってしまう可能性があります。経験再生を行うことで、様々な経験をバランス良く学習に活かすことができ、学習が安定しやすくなります。
固定ターゲット (Fixed Target Network)
DQNでは、「現在のQ値を予測するネットワーク」とは別に、少し前の状態の「目標となるQ値を計算するためのネットワーク(ターゲットネットワーク)」を用意します。
学習の際、Q値を更新するための目標値を、常に最新のネットワークで作ってしまうと、目標値自体がコロコロと変わってしまい、学習が不安定になることがあります。そこで、ターゲットネットワークの更新頻度を遅らせることで、学習の目標をある程度固定し、安定した学習を目指します。 まるで、遠くに見える動かない灯台を目指して船を進めるようなイメージです。
これらの工夫により、DQNは複雑な問題に対しても、より安定して賢い行動を学習していくことができるのです。
DQNは何がすごいの?
DQNの登場は、人工知能の分野に大きな進歩をもたらしました。特に、以下のような点が画期的でした。
- 複雑な入力情報から直接学習できる: 以前は、人間がゲームの状況を分析し、「ボールの位置はここ」「敵の数は何体」といった特徴量を抽出してコンピューターに与える必要がありました。しかしDQNは、ゲームの画面のような生のピクセルデータから直接、状況を理解し、最適な行動を学習できます。これは、ディープラーニングの強力な特徴抽出能力のおかげです。
- 汎用性が高い: 特定のゲームだけでなく、様々な種類のゲームや、さらにはロボットの制御など、幅広い問題に応用できる可能性があります。基本的なアルゴリズムの骨格は同じままで、異なる課題に取り組むことができるのです。
- 人間を超える性能を発揮することも: 有名な例として、DQNは多くのアタリ社の古典的なビデオゲームで、人間のプロプレイヤーと同等かそれ以上のスコアを叩き出すことに成功しました。これは、機械が人間から教わるのではなく、自ら試行錯誤することで高度な戦略を獲得できることを示しました。
まとめ
今回は、DQN(Deep Q-Network)とは何か、その基本的な考え方や仕組みについて、できるだけ専門用語を使わずに解説しました。
DQNは、「Q学習」という行動の価値を学ぶ仕組みと、「ディープラーニング」という複雑な状況から価値を予測する仕組みを組み合わせることで、コンピューターが自ら賢い行動を見つけ出せるようにした画期的な技術です。
「経験再生」や「固定ターゲット」といった工夫により、より効率的かつ安定的に学習を進めることができます。そして、ゲームAIをはじめとする様々な分野で、人間を超えるような成果を出し始めています。
この入門編を読んで、DQNという技術に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。次回は、DQNが実際にどのような場面で活用されているのか、より具体的な例を交えながら解説していく予定です。
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