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SARSAとは?わかりやすく解説

SARSA(サルサ)は、機械学習の一分野である強化学習で使われるアルゴリズムの一つです。この記事では、SARSAの基本的な考え方や仕組み、そしてどのような場面で活用できるのかを、専門用語を極力避け、具体例を交えながら丁寧に解説します。


SARSAとは何か?

SARSA(サルサ)とは、一言でいうと「行動しながら学ぶ賢いやり方」のことです。

もう少し詳しく言うと、機械が「ある状況(State)で、ある行動(Action)をしたら、どんなご褒美(Reward)がもらえて、次にどんな状況(State')になり、そこでどんな行動(Action')をするか」という一連の経験を使って、より良い行動を学んでいく方法のことです。

このアルファベットの頭文字をとって「SARSA」と呼ばれています。なんだかリズミカルで覚えやすい名前ですね。

SARSAは、AI(人工知能)が試行錯誤を繰り返しながら、目標を達成するための最適な行動パターンを見つけ出す「強化学習」という学習方法の一種です。

強化学習って何?

SARSAを理解するために、まずは「強化学習」について簡単に触れておきましょう。

強化学習は、犬のしつけをイメージすると分かりやすいかもしれません。犬が良いことをしたら褒めておやつをあげ(報酬)、悪いことをしたら叱る(罰)。これを繰り返すことで、犬は徐々に「どうすればおやつがもらえるか」を学習していきます。

強化学習もこれと似ていて、AI(この場合の「エージェント」と呼びます)が行動を選択し、その結果として環境から「報酬」や「罰」を受け取ります。この経験を通して、エージェントは「どのような状況で、どのような行動をすれば、より多くの報酬を得られるか」を学んでいくのです。

SARSAは、この強化学習の中でも代表的なアルゴリズムの一つとして知られています。

SARSAの仕組み:どうやって学ぶの?

では、SARSAは具体的にどのようにして「より良い行動」を学んでいくのでしょうか? 難しい数式は使わずに、その流れを見ていきましょう。

SARSAの学習は、以下のステップを繰り返すことで進んでいきます。

  1. 今の状況を把握する(S: State) まず、AI(エージェント)は自分が今どんな状況に置かれているのかを認識します。例えば、迷路の中にいるロボットなら、「今いる場所の座標」や「壁がどの方角にあるか」などが状況にあたります。

  2. 行動を選ぶ(A: Action) 次に、今の状況でどんな行動を取るかを決めます。最初は手探りかもしれませんが、学習が進むにつれて、過去の経験から「この状況なら、この行動が良いだろう」と判断できるようになります。例えば、ロボットなら「前に進む」「右に曲がる」「左に曲がる」といった行動が考えられます。

  3. 行動の結果、ご褒美をもらう(R: Reward) 選んだ行動を実行すると、環境から何かしらのフィードバックがあります。これが「報酬」です。迷路のロボットの例で言えば、ゴールに近づけばプラスの報酬、壁にぶつかればマイナスの報酬(罰)といった具合です。

  4. 次の状況を知る(S': Next State) 行動した結果、AIは新しい状況に移ります。ロボットが前に進めば、新しい場所に移動するわけです。

  5. 次の状況で何をするかを選ぶ(A': Next Action) そしてここがSARSAの大きな特徴なのですが、新しい状況で次に行う行動も実際に選びます。 まだ実行はしませんが、「次にこの行動をしよう」と決めるのです。

  6. 経験を元に「行動の価値」を更新する ここまでの一連の経験「今の状況(S)で、この行動(A)をしたら、これだけのご褒美(R)がもらえて、次の状況(S')になり、そこで次の行動(A')を選んだ」という情報を使って、「今の状況で取った行動はどれくらい良かったか」という「行動の価値」を更新します。 具体的には、「今回得られた報酬」と「次の状況で次の行動をすることによって得られると期待される価値」を考慮して、行動の価値を少しずつ修正していきます。

    もし、ある行動が良い結果(高い報酬)につながり、かつ、その次の行動も良い結果につながりそうだと分かれば、その行動の価値は高くなります。逆に、悪い結果につながったり、次の行動があまり良くなさそうだったりすれば、その行動の価値は低くなります。

  7. 1に戻って繰り返す この一連の流れを何度も何度も繰り返すことで、AIは徐々に「どの状況でどの行動をすれば、最終的に最も多くの報酬を得られるか」を学習し、賢くなっていくのです。

SARSAのポイントは、実際に行動する予定の次の行動(A')を使って、現在の行動(A)の価値を評価するという点です。そのため、「今の方針に従って行動し、その結果に基づいて学習する」という意味で「方策オン型(On-policy)」のアルゴリズムと呼ばれます。

SARSAは何に使われるの?

SARSAは、様々な分野で応用が期待されています。例えば、以下のような場面で活用できます。

  • ロボットの制御:工場で部品を組み立てるロボットアームや、未知の環境を探索するロボットなどが、効率的な動き方を学習するのに役立ちます。例えば、障害物を避けながら目的地に到達する経路を学習したり、物を掴んで運ぶ最適な手順を学習したりできます。
  • ゲームAIの開発:囲碁や将棋、ビデオゲームなどで、人間と対戦したり、人間を楽しませたりする賢いAIキャラクターを作るのに使われます。キャラクターが状況に応じて最適な行動を選択し、ゲームを有利に進められるように学習します。
  • 推薦システム:ユーザーの過去の行動履歴などから、次におすすめする商品や情報(例えば、ネットショッピングの商品やニュース記事など)を判断するのに応用できます。ユーザーがより満足するような推薦を行うことで、サービスの利用促進につながります。
  • 資源配分の最適化:限られた資源(例えば、電力、通信帯域、広告予算など)を、どのように配分すれば最も効果的かを学習するのに役立ちます。状況の変化に応じて、リアルタイムに最適な配分を決定することができます。

これらはほんの一例であり、SARSAのような強化学習の技術は、今後ますます多くの分野で活用されていくと考えられています。

SARSAの特徴:良い点と少し注意が必要な点

SARSAには、他の強化学習の手法と比べていくつかの特徴があります。

良い点:

  • 比較的安全な行動を学習しやすい:SARSAは、実際に次に行う行動を考慮して学習を進めます。そのため、危険な行動を避け、安定した成果を出しやすい傾向があります。例えば、ロボットが崖っぷちを移動する場合、より安全な内側のルートを選ぶようになる、といった具合です。これは、「方策オン型」であることの利点の一つです。
  • 仕組みが比較的シンプル:他の高度な強化学習アルゴリズムと比較すると、SARSAの基本的な考え方や計算方法は理解しやすい部類に入ります。そのため、強化学習の入門として学ぶのにも適しています。

少し注意が必要な点:

  • 最適な行動を見つけるのに時間がかかることがある:SARSAは、現在の方針に従って行動しながら学習するため、時には遠回りをしてしまうことがあります。必ずしも最短で最適な解にたどり着けるとは限らず、学習に多くの試行回数が必要になる場合があります。
  • 探索と活用のバランスが重要:学習の初期段階では、色々な行動を試して「探索」することが重要です。しかし、学習が進んできたら、これまでの経験で「良い」とわかっている行動を積極的に「活用」することも大切です。この「探索」と「活用」のバランスをうまく取る必要があります。このバランスが悪いと、いつまでたっても最適ではない行動を取り続けたり、逆に局所的な最適解に陥ってしまったりする可能性があります。

まとめ

今回は、強化学習のアルゴリズムの一つであるSARSAについて、その基本的な考え方や仕組み、そしてどのようなことに使えるのかを、できるだけ専門用語を使わずに解説しました。

SARSAは、「今の状況(S)→行動(A)→報酬(R)→次の状況(S')→次の行動(A')」という一連の経験に基づいて学習を進める方法です。実際に取る行動を重視するため、比較的安全で安定した学習が期待できます。

ロボット制御やゲームAIなど、様々な分野での応用が期待されるSARSA。この記事が、SARSAという技術に触れる第一歩となり、AIや機械学習の世界への興味を深めるきっかけとなれば幸いです。

次回は、このSARSAをどのように活用していくのか、具体的な例を交えながらもう少し掘り下げていく「活用例編」をお届けする予定です。


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