SIFT(スケール不変特徴変換)とは?わかりやすく解説
SIFT(スケール不変特徴変換)は、画像の大きさが変わっても、回転しても、明るさが変わっても、同じ部分を見つけ出すことができる魔法のような技術です。この記事では、その仕組みや長所・短所を、専門用語を避けて、初心者の方にも分かりやすく解説します。
SIFT(スケール不変特徴変換)とは何か
SIFT(シフトと読みます)は、Scale-Invariant Feature Transform の頭文字をとったもので、日本語では「スケール不変特徴変換」と訳されます。なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、ひと言でいうと、「画像の大きさが変わっても、回転しても、明るさが変わっても、同じ部分を見つけ出すことができる魔法のような技術」です。
例えば、あなたが持っている写真Aと、その写真Aを拡大コピーして少し回転させた写真Bがあるとします。人間の目なら、これらが同じ写真の一部だとすぐに分かりますよね。SIFTは、コンピューターにも同じように、写真Aと写真Bの同じ部分を「ここが同じだよ!」と教えてあげることができる技術なのです。
この「同じ部分」のことを、SIFTでは「特徴点(キーポイント)」と呼びます。SIFTは、画像の中から特徴的な点を見つけ出し、その点の周りの情報を数値の集まり(これを「特徴量記述子」と呼びます)として記録します。この特徴量記述子が、画像の大きさや回転、明るさの変化に強いという特徴を持っているため、異なる画像同士でも同じ物体や場所を見つけることができるのです。
SIFTの処理の流れ
SIFTがどのようにして画像の中から特徴点を見つけ出し、それを照合するのか、その大まかな流れを見ていきましょう。専門的な言葉はなるべく使わずに、何をやっているのかイメージで掴んでみてください。
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画像のぼかし具合を変えながら、特徴的な場所を探す準備をする
- まず、元の画像を少しぼかしたり、もっとぼかしたりと、色々なぼかし具合の画像を作ります。これは、画像の大きさが変わっても対応できるようにするためです。大きな画像ではぼんやりとしか見えない部分も、小さな画像でははっきり見える、といった具合です。
- 次に、これらのぼかした画像同士を引き算します。すると、画像の明るさが急に変わっている場所や、模様が細かい場所などが強調されます。これらの場所が、特徴点になりそうな候補です。
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「ここぞ!」という特徴的な点(特徴点)を見つけ出す
- 先ほど強調された場所の中から、特に目立っている点を探し出します。このとき、点の周りの明るさの変化が、どの方向から見ても同じくらいか、あるいは一方向だけ特に強いか、などをチェックします。あまりにも平坦な場所や、まっすぐな線の上にあるような点は、特徴的とは言えないので除外されます。
- こうして選び抜かれた点が、「特徴点(キーポイント)」となります。この特徴点には、「どのくらいのぼかし具合の画像で見つけたか」という情報(これが「スケール」です)も一緒に記録されます。
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特徴点に「向き」を与える
- 見つけ出した特徴点の周りの明るさの変わり方を調べ、その特徴点の「向き」を決めます。例えば、ある特徴点の周りで、右斜め上の方向に向かって明るさが一番急に変わっていれば、その方向を特徴点の向きとします。これにより、画像が回転していても、特徴点の向きを基準にすることで、同じように情報を記述できるようになります。
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特徴点の「顔つき」(特徴量記述子)を記録する
- 特徴点の向きが決まったら、その向きを基準にして、特徴点の周りの部分の明るさの変わり方を、さらに詳しく調べます。具体的には、特徴点の周りを小さなブロックに区切り、それぞれのブロックで明るさがどの方向にどれくらい変わっているかを記録します。この情報を集めて数値のリストにしたものが、「特徴量記述子」です。これは、いわば特徴点の「顔つき」のようなもので、128個の数値で表されることが多いです。
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特徴点同士を見比べる
- 2枚の画像からそれぞれSIFTで特徴点と特徴量記述子を抽出したら、それぞれの特徴量記述子を比べていきます。記述子が似ていれば似ているほど、それらの特徴点は同じ場所である可能性が高いと判断できます。
このように、SIFTはいくつかの段階を経て、画像の大きさや回転、明るさの変化に強い特徴点を見つけ出し、それらを照合することができるのです。
SIFTの良いところ
SIFTには、他の画像認識技術と比べて、いくつかの優れた点があります。
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画像の大きさが変わっても大丈夫(スケール不変性)
- 名前にもある通り、SIFTの最大の特徴は、画像の大きさが変わっても同じ特徴点を見つけ出せることです。拡大された画像でも縮小された画像でも、同じように特徴を捉えることができます。これは、処理の最初の段階で、様々なぼかし具合(スケール)の画像を用意しているおかげです。
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画像が回転していても大丈夫(回転不変性)
- 画像がどれだけ回転していても、特徴点の「向き」を基準に情報を記述するため、安定して同じ特徴点を見つけることができます。
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明るさの変化に比較的強い(輝度不変性)
- 多少暗い画像や明るい画像でも、特徴点を見つけ出すことができます。これは、明るさの差(勾配)を主に利用しているためです。
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ある程度の視点変化にも対応できる
- 物体を少し違う角度から見た場合でも、特徴点が完全に隠れてしまわなければ、ある程度は対応できます。
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ノイズ(画像のざらつきなど)にも比較的強い
- 多少のノイズがあっても、特徴点の検出や記述への影響は比較的少ないです。
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特徴点の数が多い
- 他の手法に比べて、比較的多くの特徴点を見つけることができるため、画像の一部が隠れていたりしても、残りの特徴点を使って照合できる可能性が高まります。
これらの良いところがあるため、SIFTは物体の認識、画像のつなぎ合わせ(パノラマ写真作成)、3次元モデルの復元など、様々な分野で活用されてきました。
SIFTの悪いところ
SIFTは非常に優れた技術ですが、いくつかの弱点や注意点もあります。
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計算に時間がかかる
- SIFTの処理は、複数の段階を経て行われ、それぞれの段階で多くの計算が必要です。そのため、特に大きな画像やたくさんの画像を処理しようとすると、時間がかかってしまうことがあります。リアルタイム性が求められる処理には、工夫が必要になる場合があります。
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特許の問題(過去)
- SIFTアルゴリズムは、以前は特許で保護されており、商用利用する場合にはライセンス料が必要でした。しかし、この特許は2020年に期限切れとなり、現在では自由に使用できるようになっています。ただし、関連する改良技術などについては、依然として注意が必要な場合があります。
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あまりにも大きな変形には弱い
- 画像の大きさが極端に変わったり、回転が激しかったり、あるいは見る角度が大きく変わりすぎて元の形がほとんど分からなくなってしまうような場合には、さすがのSIFTでも対応が難しくなります。
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繰り返し模様には弱い
- 壁紙のような同じ模様がずっと続いている場所では、どこが特徴的なのか区別がつきにくく、間違った対応付けをしてしまうことがあります。
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ぼやけた画像には弱い
- ピンボケしている画像や、もともと解像度が低い画像では、特徴的な明るさの変化が捉えにくいため、うまく特徴点が見つからないことがあります。
これらの点を理解した上で、SIFTが適している場面かどうかを判断することが大切です。
まとめ
今回は、SIFT(スケール不変特徴変換)について、その基本的な考え方、処理の流れ、そして良いところと悪いところを、なるべく専門用語を使わずに解説しました。
SIFTは、画像の大きさや向き、明るさが変わっても、画像の中の「同じ部分」を見つけ出すことができる強力な技術です。この技術のおかげで、コンピューターは人間のように、様々な状況で撮影された画像同士を比較したり、特定の物体を見つけたりすることができるようになりました。
計算に時間がかかるなどの課題もありますが、その優れた特性から、画像認識の世界では非常に重要な役割を果たしてきました。SIFTの基本的な仕組みを理解することで、画像認識やコンピュータビジョンといった分野への興味がさらに深まるかもしれません。
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